直腸癌の手術
肛門を残す方法や人工肛門を作る方法もある
かつては、直腸癌の手術では肛門まで切除し、人工肛門を作るのが主流でした。しかし現在では、肛門を残し、 排便機能を維持する手術も行われています。 また、直腸の周囲には、排尿・排便機能や性機能をつかさどる「自律神経」が通っています。 この自律神経を、できるだけ傷つけたり切除したりしないようにしながら、直腸癌の手術ができる場合も多くなりました (自律神経温存術)。ただし、癌の進行度によっては、自律神経の温存が難しいこともあります。
■直腸癌の手術の方法
直腸癌では次の3つの方法が行われます。
- ▼肛門機能温存術(肛門括約筋温存術)
- 癌のある位置が肛門から3~4cm以上離れている場合に行われます。 肛門と肛門を締める筋肉(肛門括約筋)は残して、癌を含めた直腸の一部を切除し、 切除後の端と端を縫合(吻合)します。肛門を残すことができるので、手術後も自然に排便することができます。
- 最近では、直腸癌の約70~80%で、肛門機能温存術が行われるようになっています。 ただし、高齢者などで肛門括約筋が弱っているような場合は、手術後の「頻便」が起こったりするので、 人によっては人工肛門を作った方が、活動的に生活できることもあります。
- ▼直腸切除術
- 癌が肛門の近くにある場合は、肛門を含めた直腸を切除し、人工肛門を作ります。 一般に、人工肛門は癌を切除してから左側の下腹部の体表に孔を開け、そこから結腸の先端を引き出し、 お腹の皮膚と縫合して作ります。人工肛門は、毎日の手入れが欠かせません。 体型などから、手入れしやすい位置には個人差があるため、下腹部のどの位置に人工肛門を作るのかを、 事前に担当医とよく相談しましょう。
- ▼局所切除術(経肛門的切除術)
- 特殊な手術器具を肛門から挿入し、直腸を切開して癌を切り取る方法です。リンパ節に転移がなく、 粘膜にとどまっている癌、あるいは癌の直径が2cm以内で、粘膜下層の上部にとどまっている癌に対して行われます。 また、肛門はそのまま残せます。
進行度が同じ直腸癌と結腸癌を比べたとき、直腸癌のほうが、治りにくいことがわかっています。 一般的には、直腸癌の手術が結腸癌よりも難しいことや、癌の進行が早いこと、転移する経路が複雑なことなどが、 その理由としてあげられます。そのため、医療機関によって、直腸癌の治療成績や肛門の温存率に差があるともいわれています。 大腸癌の手術を受ける際は、専門医がいる医療機関を選ぶとよいでしょう。
●手術の後遺症
結腸癌の場合、手術の後遺症が現れることはほとんどありません。 しかし、直腸癌では、日常生活に影響を及ぼすような後遺症が起こることがあります。
- ▼排便機能障害
- 1日に何度も排便のためトイレに行くようになります。 直腸のほとんどを切除するので、便を十分にためて一度に押し出すことができなくなるためです。 肛門括約筋が温存されていても起こります。
- ▼排尿機能障害
- 排尿をコントロールする自律神経は直腸のすぐ近くにあるので、手術で傷害されると、 「尿意がわからない」「自力で排尿できない」「残尿」「尿失禁」などの症状が現れます。
- ▼性機能障害
- 直腸の近くには、男性の場合、勃起や射精などの性機能をコントロールする自律神経があり、 そこが手術で傷ついたりすると、性機能障害が生じることがあります。
このような後遺症は、手術後、腸の機能が安定してくるにつれ、半年~1年で徐々に改善していきます。 しかし、後遺症から完全に回復するのは、難しいのが現状です。
●最後に
結腸癌の場合、手術後の日常生活に不具合が生じることはほとんどありません。 一方、直腸癌では、今までは肛門を切除して人工肛門を作る手術が主流だったため、人工肛門のケアなど、 手術後の生活に不便が生じることがありました。しかし現在では、肛門を残して、排便機能を維持する方法も行われています。 癌の発生した部位によっては行えませんが、これにより直腸癌の80~90%で肛門が残せるようになっています。 また、直腸の周りには、排便・排尿機能、性機能を司る神経が集まっています。 こういった神経を傷つけないようにしながら、直腸癌の手術ができる場合も多くなりました。 そのため、直腸癌の手術を受けても、手術前とそう変わらない生活が送れるようになってきています。
大腸癌の手術を受ける際は、病状をきちんと把握し、手術後の障害や生活への影響などについても理解した上で、 担当医と相談しながら自分に適した方法を選択することがとても大切です。 また、大腸癌では、手術を受けた人の約20%に再発が起こることがわかっています。 そのため、手術後に再発予防を目的に、抗癌剤による治療や放射線治療が行われることもあります。